東京高等裁判所 昭和44年(う)2021号 判決 1970年7月20日
主文
原判決中被告人滝上茂、同八島功、同福島一男に関する部分を破棄する。
被告人滝上茂を懲役一年に、被告人八島功、同福島一男を各懲役八月にそれぞれ処する。
被告人八島功、同福島一男より各金五〇万円ずつを追徴する。
<訴訟費用―略>
理由
<前略>
被告人八島功、同福島一男の弁護人平井嘉春の控訴趣意第一点について。
所論は、被告人八島、同福島に対する原判決の判示罪となるべき事実の第二の(1)(2)の各事実、原裁判所の判断および原判決の弁護人平井嘉春の主張に対する判断には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるとして、その理由を四項目に分けて主張しているので、以下これらの主張に対し順次判断を示す。
一、所論は、要するに、原判決は、「本件ビラ頒布行為が、その記事内容から公職選挙法第二三五条第二号の虚偽事項を構成するかどうかについて検討するに、……中略……結局本件ビラは真偽不明の風聞ないし噂を恰もこれを真実であるかのごとく仮装したもので、その頒布行為は前法条にいう『虚偽の事実を公にしたとき』に該当するものといわざるを得ない。」旨判示し、その証拠として、特に……の各供述を掲記している。しかしながら、原判決挙示の右各証拠は信用することができないばかりでなく、とくに右証人宇津木啓太郎、同関根藤五郎の各供述は、その内容が真実に反し、とうてい信用に足るものでないうえに、<証拠>を綜合すれば、青梅砂利組合加入業者から贈賄された金銭のあることが相当程度に認定でき、宇津木啓太郎の汚職の被疑事実が公然と青梅はじめ西多摩地区の人々の耳に伝わつていたことが認められるのであつて、原判決認定のごとく、単に仮装した事実でないことが認められるから、同判決には、事実の誤認があるというのである。
しかし、原判決挙示の関係証拠を綜合して考察すると、原判示宇津木啓太郎が砂利業者から二〇〇万円を収賄した事実を認めるに足る証拠はないから、原判決が、原判示実在しない東都タイムス名義の二種類のビラは、真偽不明の風聞ないし噂を、あたかもこれを真実であるかのごとく仮装したものである旨の判断をしたのは正当であつて、記録を精査し、当審における事実取調の結果によつても、これを左右するに足る証拠は存しない。なお、原判決が証拠に採用している前記各証拠は、その各供述内容および供述記載を仔細に検討し、原判決掲記のその余の関係証拠と対比すれば、信用性があるものと認められる。
二、所論は、要するに、公職選挙法第二三五条第二号の犯罪が成立するには、特定候補者または候補者になろうとする者をして当選を得させない目的を有すること、および被告人らにおいて、公表された事実が虚偽であることの認識を有していることを必要とするところ、原判決摘示の各証拠をもつてしても、被告人らが右の目的および認識を有していたことを認定することができないばかりでなく、本件ビラの内容は、当選を妨ぐるに至るべきおそれ、またはその性質を有するものでないことがうかがわれるから、原判決には、事実の誤認があるというのである。
しかし、公職選挙法第二三五条第二号の罪は、当選を得させない目的をもつて公職の候補者または公職の候補者となろうとする者に関し虚偽の事項を公にすることにより成立し、公表された事項が虚偽であるかぎり、それによつて当選を妨げるに至るべきおそれがあるかどうか、またはその性質を有していないかどうかは、本罪の成立に影響を及ぼすものではないと解するのを相当とする。けだし、虚偽事項の公表は、買収行為や選挙の自由妨害などとともに、選挙人をしてその公正な判断を誤らせる因となるものであつて、選挙の自由公正を害するところ大なるものがあるからである。そして、本件二種類のビラに公表された事項が、真実と符合しない虚偽であることは、前段で説示したとおりであり、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人八島、同福島の両名において、原判示立候補者宇津木啓太郎に当選を得させない目的を有するとともに、原判示二種類のビラに公表された事項が虚偽であることを認識していたことを含めて、原判示第二の(1)の事実を十分に肯認することができ、記録を精査し、当審における事実取調の結果に徴しても、これを覆すに足る証拠はない。<以下略>(吉川由己夫 岡村治信 桑田連平)